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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第一章 殺したがりの少年と死にたがりの少女(3)

 目が覚める。
 監獄にいたときは眠っても大して疲れはとれなかったが、やはりベッドがあると違うのか今日は随分寝覚めが良かった。
 だが妙に重みを感じる足下に目を向けると、足の上で横たわって眠る少女がいた。
「ぐはっ」
 それを軽く蹴飛ばして体を起こすと、小さな悲鳴をあげた理恵が目を覚ました。
「何ですかぁ。もう少し優しく起こしてくださいよぉ」
 理恵は明らかに寝起きの声で愚痴を垂れる。
「どんな寝相で寝てんだよ。芸術品かお前は」
「いいじゃないですか別にぃ。無意識の行動なんですから仕方ないじゃないですかぁ」
 寝癖で所々に跳ねる髪をかきあげて、理恵は眠たそうに欠伸をする。
「そもそも勝手にベッドに入ったよな、てめぇ」
「ベッドの面積を有効活用しようと思いまして」
「俺の足まで活用してたけどな」
 鏡也はやれやれといったように、ベッドから起き上がる。すると理恵が真剣な声で呟いた。
「一人で寝るのが怖かったんですよ」
「……」
 鏡也が足を止めて振り向くのも束の間。
「なぁんて、そろそろ出発するんですか?」
 いつもの無邪気な顔で言われる。
「……あぁ」
 鏡也はそれだけ言って、追求はしなかった。


 月が綺麗に輝く真夜中、鏡也は灰村が用意したらしいバイクを取り出していた。
 監視の目的か理恵も屋敷のところまではついてくるつもりらしく、寝癖を直してから外に出てきた。
「鏡也さん、バイク運転できるんですか?」
 バイクと鏡也を見比べて、そんな質問を投げ掛けてくる。
「いや、運転したことはねぇけど」
「ないのにそれで行く気なんですか!」
「遠いだろーが。歩きだと」
「それはそうですけど……」
 運転技術を会得できるような場所などないので、上手いかどうかは経験が物を言う。国家時代は免許というものを取らなければ駄目だったらしいが、今は誰でも技術さえあれば乗って良い時代だ。鏡也にはその技術もないわけだが。
「一台しかねぇからお前も来るんなら後ろに乗れ。どうする?」
「後ろに、って言っても初めてなんですよねぇ……」
「じゃあいい。お前は歩いてこい」
 鏡也がバイクに乗って走り出そうとすると。
「分かりました分かりましたよ! 私も乗りますって!」
 開き直ったように理恵が後ろに乗った。
「なるべくゆっくり運転してくださいね」
 文句の多い理恵を乗せて、鏡也はバイクを走らせる。
 深夜なだけあって、バイクの走行音だけがよく響く。第五十九区は都会と言えるような場所ではあるが、流石にこんな時間ではそう人はいない。
 バイクは加速し急速にスピードが上がっていき――。
「って、ちょ、速いですよ! なんかどんどん速くなってるんですけど――」
「あぁ、悪い。スピードの加減がよく分からん」
 アクセル全開だった。
「ストップストップ! 止めましょう! 運転が下手です! 蛇行気味だし!」
「面倒くせぇ。文句あんなら分かりにくい構造で作った奴を恨め。このまま突っ切る」
「ええぇえ! マジですか!」
 深夜にバイクの走行音と少女の悲鳴だけがこだましていた。



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