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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第一章 殺したがりの少年と死にたがりの少女(4)

 工藤日姫の家の近くにある公園にバイクを止める。
 日姫の家はここから見ても分かるくらい豪邸だった。周囲の家がちっぽけに見えるほどの大きさで、第五十九区の名物と言っても差し支えなさそうな感じだ。
 ガキがご立派なところに住んでいる、と思った。
 だがあれほどの豪邸に住むのなら、世間的にも多少は有名であろう。逆にそれが、日姫が犯罪者であることに何となく真実味をもたらしてしまう。どう見ても、一般家庭と言えるものではないのだから。
「あのぉ……」
 日姫の家を観察していると、バイクの上でぐったりしている理恵が声をあげた。
「よくあんな運転して平常でいられますね……」
「お前が貧弱なだけじゃねーの」
「あぁそうですねはいはいとっても素晴らしい乗り心地でしたよ」
 理恵は諦めたように言うと、バイクからずり落ちるように地面に倒れ込む。
「ところでよく地図も見ずに場所分かりましたね」
「灰村に渡されたときに見たさ。写真記憶だから一度見たら忘れねぇんだよ」
「あぁ、そういうこと……」
「それより工藤日姫の部屋はどこなんだ? この時間、流石に寝ているだろうが場所が分かんねぇとこっちも辛いぞ」
 汗だくで顔色の悪い理恵がポケットから紙を取り出す。それをまじまじと見つめた後。
「えっと、正面から見て右端の部屋です。三階の」
 それだけ言うと具合が悪そうに地べたに横になった。
 あの程度でこんなに疲れるとは女性は相手にし辛い。
「じゃあお前はここで休んでろ。まさか殺害現場にまでついてくるとは言わねぇだろ?」
「言いませんけど……どうやって侵入する気なんですか? 家にいる人皆殺しとかはやめてくださいよ。ターゲット以外の殺人は認めていないんですから」
 理恵が心配げに見つめてくる。
「侵入する方法なんざ一つしかねぇだろ」
「え?」
 鏡也の侵入方法を聞いた理恵は呆れていたが、他に手段もないので鏡也は一人日姫の家へと向かった。


 結局鏡也は、壁と木などを使って無理矢理屋根上へと登り詰めた。
 今が零時を過ぎるような時間帯だったからこそできる芸当だ。昼間なら人目につくためこんな強引な手は使えない。
 屋根をつたって日姫の部屋の真上まで移動する。工藤家は三階建てなので、鏡也の真下に日姫がいることになる。
 だが日姫の部屋から電気の光が洩れていた。もう深夜だと言うのに、まだ起きている可能性がある。
「ったく、面倒だな」
 抵抗されたところで殺すのはわけないが、あまり暴れられても困る。鏡也は日姫以外を殺さずにここから逃げなくてはならないのだから。
「とりあえず殺してすぐ逃げりゃいいか。暗いしバイクもあるからなんとかなるだろ」
 楽観的に考えられるのは経験から来る余裕だろう。鏡也は二十二回、似たようなことをしているのだから。たとえ予想通りに事態が運ばなかったところで、取り乱さずに対処できる自信もある。
 鏡也は灰村から貰った写真を取り出し、今一度ターゲットの顔を確認する。写真記憶故に脳裏には顔が刻み込まれているが、わざわざ確認したのは何も思い出すためではない。
 どうしてこんな子供が自分に殺されるのか、という疑問が頭から離れないからだ。
 善悪も理解できていなさそうに見えるこんな子供が、鏡也という殺し屋を使ってまで殺さなくてはならない危険人物なのだろうか。外見からはとてもそうは見えない。
「もっと俺みてぇな分かりやすい悪ならいいんだがな……」
 人は見掛けによらない、とは分かっていても、流石にこれほど極端な例もないだろうと思う。自分が日姫ほどの子供だったときは、まだ何の悪意も持っていない純粋な人間だったのだが。
 しかし機関が殺せと言うほどなら、きっと極悪人なのだろう。理由は分からずとも鏡也にとってはそれで充分。自分のような悪人は有無を言わさず殺しておくべきだ。
 鏡也はナイフを取り出し、日姫の部屋の窓に突き刺した。硝子にヒビが入ったが、一度だけでは割れない。もう一度力強く刺すと今度は大きな音をたてて窓硝子が割れた。
 割れると同時に、屋根から体を捻って日姫の部屋に入る。暗闇から急に光のある場所に入ったので、目が少し痛んだ。
「だ、誰だ!」
 部屋に入るとすぐにそんな声が生まれた。まだあどけなさの残る少女の声で。
 鏡也が目を向けると、そこには写真通りの工藤日姫が立っていた。
 顔は幼いがキリッとした目つきで鏡也を睨み、冷や汗をかきつつも取り乱さずに冷静でいる。髪は綺麗に切り揃えられていて、赤と黒の混じった少し高価そうな服を着ていた。
 その目はとても澄んでいて、まるで犯罪者の瞳ではないと思った。
 鏡也は鼻で笑うと、ただ冷たく言い放つ。
「お前を殺しに来た」
 さぁ、泣き叫べ、怒り狂え。その本性を現してみろ。
 鏡也の言葉を聞いた日姫はまさしくそうなるだろうと踏んでいた。どんな重罪人であろうと所詮は子供。脅せば自分の本性を簡単に見せるだろうと。
「本当か?」
 だが返ってきた言葉は、完全に鏡也の予想を越えていた。
「本当に殺してくれるのか?」
「……はぁ?」
 何言ってやがる、と言う暇さえも与えずに日姫は言う。

「頼む! 私を殺してくれ!」

 それが唯一の望みであるように、日姫は叫んだ。



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