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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第二章 少女はただ涙を流す(4)

 何百枚と散らばる書類から数枚必要な書類を取り出すと、女性は側にあるパイプ椅子へと腰掛けた。
 国家が崩壊し経済力も大幅に失われているとはいえ、椅子程度のものならもっとまともなものが流通している。機関が国家時代の経済力を取り戻そうと奮闘しているからだ。
 現時点ではまだ全ての土地を機関の支配下に置いているわけではないが、徐々に領域は拡げていっているので、国全域を統治するのもそう遠くはない。再び機関が『国家』を再興したときは、他国との貿易も視野に入れるつもりだ。
 それでもこの女性がこのような安っぽい椅子を使っているのは、ただ豪華な椅子というものが無駄に柔らかくて座り心地が悪いと感じるからだ。
 その女性、灰村舞は手元にある書類の内容を熟読すると、再びそれらを書類の山へと適当に放り投げた。
 机の周囲に広がる書類の山は、灰村がだらしないからできたわけではない。
 これだけの数の書類だと、たとえ整理しても探し出すのには相当な時間がかかる。それならいっそのことそこら中にばらまいておいた方が取り出しやすいのだ。灰村は全ての書類のおおまかな位置を把握しているので、見つからなくて困るということはない。初めてこれを見た人は例外なく唖然としてしまうのだが。
 灰村は書類に埋もれるようにして置いてあった一枚の写真を取ると、そこに映る少女の姿をじっと眺める。
 工藤日姫と言う名の少女の写真だ。
 佐倉鏡也はこの少女を見て、とても犯罪者だとは思えないと言った顔をしていた。
 それもそうだろう。
 この少女は何も犯罪を犯していないのだ。
 機関の秘密を知ってしまったが故に、機関の手に消されるだけだ。
 しかしそれは灰村が非情だからではなかった。あくまでそれは日姫のせいで機関が崩壊しないためのもの。ひいてはこの国のためである。
 たとえ日姫に機関を潰す意志がなくても、日姫を利用する人間が現れれば脅威であることに変わりはない。それならば速やかに日姫を殺しておかなくてはいけないのだ。
 既に日姫を利用しようとしている人物はいるのだから。
 灰村は胸元のポケットから煙草を取り出すと、一本だけ取りだして口に咥える。
 火をつけて煙を吐き出すと、心の中の憂鬱も一緒に吹き飛んだ気がした。
 灰村は第五十九区を束ねる区長だ。人の上に立つ人物は情に動かされてはいけない。機械のように冷徹に成すべきことをしなければならない。
 だからこそ灰村は区長に選ばれた。誰も灰村が感情で動くところを見たことがないからだ。灰村を見る者は、皆尊敬と畏怖の念を持っている。
「佐倉鏡也が余計な真似をしなければいいのだけれど」
 ぼそりと独り言を呟く。
 佐倉鏡也は優秀な殺人者だ。二十二回人を殺害しているが、最後の犯行以外は何の手がかりも残さずに殺していた。それも殆どが白昼堂々街中での暗殺だ。
 結局機関に捕らえられてはいるものの、それもまともな捕まり方ではなかった。
 現場にいた者の話では、佐倉鏡也は街中で人を殺したらしいが、何故かその後放心状態になっていたらしい。そして何の抵抗もなくあっさりと捕まったというのだ。
 当時はそのことを特に気に掛けてはいなかったが、今思うとやはりおかしな話だ。
 そんな男だからこそ、何をしでかすか分からない。
 だが工藤日姫の暗殺だけは確実に行われなければならない。何しろ工藤日姫の件は機関内の人間でも区長以上の者しか知らない。理恵でさえも本当に日姫が犯罪者だと思っているのだ。
 それほど工藤日姫は機関にとって危険人物だった。
 もちろんその暗殺能力を信頼しているからこそ佐倉鏡也を選んだわけだが、確実な結果が返ってくるまで中々落ち着くことができない。
 灰村が煙草を灰皿に押しつけると、机に置いてあった携帯電話が振動し始めた。
 億劫そうに携帯電話を手に取り画面を開くと、そこには見慣れた名前があった。
「佐倉鏡也。まさかもう終わったというの?」



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