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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第三章 二人は仮初めの幸を得る(3)

 列車の中はほぼ無人だった。
 日姫の祖母が住んでいる第二十二区は非常に人が少ない田舎であり、そんなところに向かう物好きな連中は鏡也たちを除くと殆どいないのだろう。
 列車に乗るのに金は請求されたが、鏡也と日姫の分は灰村が受け持つため代わりに理恵が支払った。理恵は自分の分は個人負担なのにとぼやいていたが、嫌ならついて来るなと言いたい。
 その理恵は現在日姫と一緒に窓から風景を見てきゃあきゃあ騒いでいる。
「……ちっ」
「どうしたんですか鏡也さん。気に入らなさそうな顔して。酔ったんですか?」
「いいよなぁお前は危機感とかなくてよぉ。こちとら常に貴崎かその仲間がいないかアンテナ張ってるっつーのに」
「そりゃあ私だって鏡也さんの監視で大忙しですよ。今だって自腹切ってまでついてきてるんですから」
「……あっそう。そりゃ大変だな」
 灰村は何故この女を自分の監視役なんかに選んだのか。まともに仕事しているところを見たことがない。
 役に立たない部下に面倒事を押しつけたというのが妥当なところか。
「なんか凄く失礼なこと考えてません今?」
「気にしすぎだ」
「いつも馬鹿にされてるんでそうとも思えないんですけどねぇ……」
 第五十九区から第二十二区まで行くには列車で二時間とそう遠い距離ではない。理恵たちが見ている風景も都会から田舎へと変貌していき、自然な景色が多くなってきていた。
「なぁ、第二十二区ってどういう場所なんだ?」
 窓の外に視線を釘付けにしていた日姫が列車内へと視線を移す。
 鏡也はその様子を見てため息を吐いた。
「お前、自分の祖母がいる場所なのに知らねぇのかよ」
「いや来たことはあるんだが……。三歳か四歳くらいのときで殆ど憶えてないんだ」
「ただの田舎だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「お前が住んでいた場所と比較してどうだ?」
 鏡也が眉をぴくりと動かす。朝食の前、日姫に自分は田舎に住んでいたと言っていた。
「……まぁ同じくらいじゃねぇの」
 その返事に言葉を投げたのは日姫ではなく、理恵だった。
「へぇ、鏡也さん第二十二区に詳しいんですねぇ」
 何かを探るような言い方。
「それがどうした」
「別にぃ。そう言えば日姫ちゃん知ってます?」
 理恵はあっさりと鏡也から目線を外して日姫に話しかける。
「第二十二区って昔、村が一つ盗賊団に襲われてるんですよ」
「盗賊団……? どうなったんだ?」
「確か男性は皆殺しにされて、女性は誘拐された後奴隷にされたり売り飛ばされたりしたらしいですよ。場合によっては女性の方が苦しい末路を辿ったでしょうね」
 明らかに子供に話すような内容ではないが、日姫はそういう話で怯え震え上がるような奴ではない。それでも息を呑んで話に聞き入っている。
 その話を日姫に話すのがおかしいのではない。
 何故そんな話を今ここでし出したのかだ。
「そうでしたよね? 鏡也さん」
 そこで話を振るから理恵は意外と侮ることのできない役者だった。
「そんなこともあったかもな」
 鏡也はただそれだけ口にしておいた。



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