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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第三章 二人は仮初めの幸を得る(5)

 夕方になっても日姫が二階から降りることはなかった。
 楓は構わないであげてくださいと言っていたが、この中で辛いと思っているのは他でもなく楓だ。せっかく孫に会えたというのにあんな風に避けられているのだから。
 楓は夕食の準備をしてきますと言って台所の方に行ってしまった。理恵も手伝おうとしていたが、テレビの前に座っている光景を見るにどうやら遠慮されたみたいだった。
「日姫ちゃん、楓さんのことが嫌いなんでしょうかね」
「さぁな。本人はそうでもないと言っていたが」
 理恵は大して興味があるようには見えないテレビ番組から目を離さずに話しかけてくる。
「でも、自分から来たいと言ったくらいなんですからもう少し愛想良くしてもいいのに」
「……お前が気にしたところで意味ねぇんじゃねぇのか?」
「そりゃそうですけど。楓さんが可哀想じゃないですか。それに日姫ちゃんだって何だか寂しそうです」
 顔はテレビの方を向いているが意識はそこにないのだろう。日姫と楓のことを心配していて中々頭から離れないに違いない。
 くだらないと思った。
「俺たちが気にしてどうする」
 鏡也はソファに座って、理恵の方を見向きもせずに言う。
「考えるだけ時間の無駄だ」
 その言葉は理恵の神経を逆撫でるのに充分な効力があったようだ。
「何ですかそれ」
 滑稽なお笑い番組が背景に流れる中、理恵が憤然と立ち上がった。
「鏡也さんは日姫ちゃんたちのことなんてどうでもいいって言うんですか」
 横に立って怒り露わにしている理恵を見る。鏡也と同い年か一つ二つ年上くらいのまだ少女と言えるような年齢。それは年相応らしいことでカリカリしているとも思えるが、この女の場合に限ってそれは決して当てはまらない。
 何故ならこの女は機関の人間だ。
 鏡也は理恵を横目に鼻で笑ってやった。
「それならこっちも訊きてぇんだけどよ。俺にあいつを殺せと命じてきた機関の方々はまさかあいつを思いやってるとでも言うのか?」
 張りぼての仮面が剥がされる。
 理恵は下唇を噛んで鏡也から目を逸らした。反論したいのにそれができないというような反応だ。
 別に鏡也は理恵のことを嫌っているわけではない。
 だがこと機関に対しては別だった。灰村がその縮図とも言えるが、機関は偽善を振りかざして自分たちを正義と抜かしている。鏡也には自分と同類とも思える機関がそのような振る舞いをしていることに苛立ちを覚えないわけにはいかない。
 そしてそれは機関に属するこの女にも言えることだ。
 胸くそ悪くなって鏡也が目を閉じると、少し離れたところからトン、トン、という小さな音が聞こえてきた。
 目を開けてそちらの方を見ると、赤と黒の混じる服を着た子供が台所に向かっていく姿があった。



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