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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第四章 魔女が笑い、奇術師が嘲笑う(4)

「反省点として、お前は包丁の使い方云々の前に調味料のさじ加減を学ぶべきだった」
「……うん」
 日姫は昼飯抜きを覚悟したらしく、その後野菜炒めを口にすることはなかった。ようやく自分の調理法に問題があったと気がついたのか鏡也の意見を素直に聞いている。
「やっぱり、ソースじゃなくて醤油にするべきだったかな」
「……お前、まだ何にも分かってねぇな」
「いや、そうするべきかな、とはちょっと思ってたんだ。やはり醤油とケチャップの組み合わせの方が魅力的だった」
 もはや突っ込む気力もなく、とりあえず今後こいつに料理を作らせるのはやめておこうと思った。
「そもそもな。あんな生物兵器まともな人間が食えたもんじゃねぇ。あれは人の腹を満たさせるものじゃなくて、人の体を壊死させる代物だ」
「けど、お前は全部食べてくれたじゃないか」
 日姫が顎で鏡也の皿を指すと、そこには完食された後があった。
「……腹が減ってただけだ。別に全て食ったことにそれ以外の意味はない」
「そうか。てっきり気に入ってくれたものだとばかり」
「よし、目下お前がやるべきことは料理の本でも買って熟読することだな!」
 根本から料理というものを誤解している日姫は何が駄目だったのか未だに分かっていないみたいだったが、このガキを見ていると理恵の料理がどれほど上手だったのか改めて思い知らされる。
 日姫が各調味料を唸りながら眺めていると、買い物袋を提げた理恵が帰ってきた。
「ただいまーって何ですかそのグロテスクな物体。私がいない間に一体どんな研究してたんですか?」
 帰ってくるなりテーブルに鎮座された野菜炒めを見て驚き、日姫は居心地が悪そうに視線を逸らしていた。
「喜べ。こいつがお前のために丹誠込めて作ってやったそうだ」
 鏡也がそんなことを言ってやると、理恵は自分のために日姫が料理をしてくれたことを喜び、満面の笑みでこう言った。
「ありがとうございます日姫ちゃん! 気持ちだけ受け取ってきますね!」
 そしてあっさりと野菜炒めを捨てる理恵を見て日姫が「あー」と名残惜しそうに嘆いていたが、まぁ妥当な判断と言ったところだろう。
「ところでさっき買い物してる途中に見かけたんですけど、近くに大きなゲーセンがあるんですよ」
「……またそれか」
 ことあるごとにゲーセン行きを勧めてくる理恵だが、今回はそれだけが目的ではないようだ。
「いや、鏡也さん。人ごみの多い第五十九区で、しかももっと人ごみの激しいゲームセンターですよ? 貴崎の方からすればこれほど隠れて行動しやすいところもないんじゃないですか?」
 確かに人ごみが多ければこちらが貴崎を見つけるのは困難になるが、逆に貴崎をおびき出しやすくはなる。ゲームセンターほど人が集まる場所もないだろうというのも頷けることではあった。
「が、お前の場合はただの詭弁に使ってるとしか思えねぇがな」
「……ま、まぁ、それはそれこれはこれ。日姫ちゃんだってゲームセンターで遊んでみたいでしょう?」
 まだ認められないのか調味料を色々漁っていた日姫だったが、話を振られて「そうだな」と答える。
「家にいたって事態は進展しないし、私は行っても構わないが」
「ほうら、日姫ちゃんも行きたくて仕方がなさそうですよ。てことで行きましょう鏡也さん!」
「……そこまで行きたそうにしていたか?」
 一応灰村からの命令もあるし日姫の要求は無下に断ることはできない。これは貴崎を見つけるためのものだと自分に言い聞かせて渋々了承することとなった。
「そもそも、何でそんなにゲーセンを嫌がるんですか?」
「その人ごみだ。わらわら人が群れる場所にいんのが嫌いなんだよ」
 行くのならさっさと貴崎の奴も姿を現してほしいものだ。そんな場所に行ってやるからには貴崎を見かけたら即座に殺してやろうと思う。
 玄関先に立ったとき、日姫が「ところでゲーセンって何なんだ?」とか言っていたがそれは軽く無視して家を出たのだった。



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