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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第五章 そして彼は堕ちる(5)

「あぁ、とっても心地よい。あなたの人生、それに汚れた運命を導く『狂気』の匂い。あなたの頭を撫でてあげたくなっちゃうな」
「御託はいい。別に今更辛いとも思っちゃいねぇよ」
 鏡也は一通り自分の過去を弥生に話して一息ついた。
 機関でさえ無差別殺人だと思っている鏡也の罪を話すことなど初めてだし、ましてや村の生き残りであることを誰かに明かすことなんてないと思っていた。
 おそらくこの魔女は俗世界との縁も断ちきっているだろうから鏡也の過去が他人に伝わることはないと思うが、自分だけが知る真相を語るなど気分の良いものではない。
「うんうん、そうだね。あなたはそんな匂いを発していない。これから先の人生は私も気になっちゃうなぁ」
「くだらねぇこと言ってねぇで早くガキの居場所を教えろ。代価はこれで充分なんだろ?」
 他人の過去を聞いてそこから未来を推測する。
 耳を疑う話だが実際にそれで日姫の運命を当てることはできていた。ただの偶然といえばそれまでだがここまでしたからにはまともな結果が返ってこないと納得いかない。
 弥生は本心で笑っているのか分からない笑みを見せ、あっさりと言い放った。
「簡単だよ。下手に動かないでじっと待っているといいよ。役者は揃ってるから」
「何だと? どういう意味だ」
「そういう意味だよ。焦って捜し回っても空回りするだけ。死神が迎えに来るのを待つんだよ」
 まるでそれが真理でもあるかのように言ってくる。
 要約すれば、向こうから動きがあるまで何もするな、ということだろうか。
「……ちっ、わけが分からねぇ奴」
 だが日姫のときも案外的はずれなことは言っていなかったのだから、完全に疑う気にもなれない。
「あれ、もう帰っちゃうの?」
 鏡也が背を向けて洞窟から出ようとすると、寂しそうな声でそんなことを言われる。
「当たり前だ。もうこんなとこに用はないからな」
「ふーん、あなたのために私も頑張ったつもりなんだけどなぁ。また何かあったら来てね。あなたの人生はいつまでも追いかけてみたいから」
「……」
 鏡也はふと足を止めて魔女の方を振り向いた。
「お前、茅原彩を占ったことがあるんだろう?」
 五年前、あの事件があった日。彩から占い魔女に会ったという話を聞いた。
 占い魔女という人物が全て目前の弥生のことを言っているのならば、弥生は彩に会ったことがあるはずだ。
「うん、あるよ。あの子の匂いもとっても良かったなぁ」
「お前はそのとき早く死なないと後悔すると言ったはずだ。……結局死んだのはその二年後になったが、あいつは生きるのを後悔したと思うか?」
 彩は鏡也と別れてからの二年間、何をしていたのだろう。
「あなたは盗賊団に連れ去られて奴隷以下の生活を味わったとき、それが後悔のしない幸せな人生だったと言えると思う?」
 そう、それが全てだったのだ。
 弥生も理恵も言っていたが、あのとき盗賊団に誘拐された女性は死よりも恐ろしい目に遭わされたらしい。
 彩が死にたいと切に願ったとき、それを否定したのは鏡也だった。
 あのとき殺していれば彩は幸せな最期を迎えられたのかもしれない。
 ならば工藤日姫は。
「……つまらねぇことを聞いたな」
 もう遅い。
 鏡也がどれだけ悔やんでも彩のためにしてやれることは何もない。
 それならせめて、同じく死にたがっている奴をすぐに殺すべきだったのかもしれない。
 鏡也が日姫を殺せずに戻ってきた理由は、冷静になれば簡単に分かることだった。
 日姫が彩の姿とダブったのだ。
 殺してくれと懇願されたとき、鏡也の頭には五年前の映像が思い浮かんでいた。
 しかし結局同じ過ちを繰り返して、何だかんだと理由をつけて日姫を殺すことを保留にしてしまった。その結果が今の状況なのだ。
「言ったよね。運命は過程が変わることはあっても結果は変わらないよ、って」
 弥生は楽しそうにクスクスと微笑む。
 弥生には彩が早く死なないと苦しむ末路が見えていた。魔女の占いは真実だったのだ。
 そしてそれが真実ならば。

 ――あの死にたがりの子、もうすぐ死んじゃうよ。

「……お前の言う運命ってのは、必ず当たるものなのか?」
 その質問の意図が分かったのか、弥生は嬉しそうに微笑んだ。
「それが運命だよ」
 魔女は全てを見透かしていた。



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