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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第五章 そして彼は堕ちる(8)

 工藤日姫は部屋の隅に座らされていた。
 体にはロープが巻かれ身動きが取れなくなっているし、自殺をさせないために口は布で縛られている。頬を見れば貴崎にどれだけ暴行を加えられたか一目で分かる状態になっているだろう。
「不満そうだな。日姫様」
 日姫を見下してくるその男は、日姫の有様を見てにやにやとしている。
 鋭く睨みつけても一向に怯まない貴崎は、日姫の髪を乱暴に掴むとそれを自分の顔に近づける。
「そろそろお前には吐いてもらう必要があるな。いつまでも布で縛られているのも辛いだろう?」
「……」
 日姫の目を見て何を言いたいのか悟ったのか、貴崎はくっくと笑い出した。
「布を取ればすぐに舌を噛んでやろうと思っているのか? なるほど、お前は機関にとって随分扱いやすい奴らしいな」
 日姫は自分が死ぬことを恐れていない。むしろ恐れるのは、自分が持つ情報を貴崎に取られ、それを世間にばらまかれることだ。そうすればたちまち世間は機関に不信感を抱き、世の中は荒れていってしまう。
 だからこそ鏡也に殺されることを望んでいたわけだが、一瞬の隙をつかれて日姫は貴崎に奪われることになった。自殺防止の布さえ取れれば日姫はすぐに死んでやる覚悟がある。
 そんなことは重々承知らしい貴崎は、日姫に耳打ちするように顔を近づけるとこう言ってきた。
「私はお前の命に興味はないが、今すぐ死なれると大変困ることになる。……その場合、抑えられなくなった私の怒りの矛先はどこに向けられるのだろうな」
 話が掴めない日姫だったが、直後投げられた貴崎の言葉に凍りつくことになった。
「第二十二区にはとても優しい老婆がいるようだなぁ。怒りで狂った男に襲われるようなことがなければいいんだが」
「……っ!」
「吐いてくれるよな、日姫様? あなたの使用人がここまで頼み込んでいるんだ」
 貴崎が日姫の口から引きはがすように布を取った。
 舌を噛んでやりたい衝動に駆られたが、今の日姫にそんな勇気はない。
「さあ、吐け。見知らぬ人間の不幸と見知った人間の不幸、お前はどっちを取る」
 そうして、日姫は貴崎に洗いざらい吐かされる。
 醜悪に満ちた貴崎の含み笑いだけがいつまでも部屋に響き渡っていた。



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