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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第六章 運命はしかと訪れる(2)

 十二畳くらいの広い部屋。日姫の実家とも遜色ないほどの大きな屋敷に連れ去られてきた日姫は、先ほどまで機関と電話をしていた貴崎の顔を睨む。
「どうして私を殺さない?」
 気味の悪い笑みが日姫に向けられてくる。
「私はお前にとって用済みのはずだ。もう殺したっていいだろう。何のために永らえさせる」
 ありのままに情報を吐かされた日姫は、貴崎にとって価値のない存在になったはずだ。それならば生かしている必要もないはずなのだが、どういうわけか日姫は未だ監禁されたままだ。
「白々しいことを言うな。お前が吐いたものが嘘っぱちである可能性もあるだろう。それを確かめるまではお前を殺すわけにいかないからな」
「そんなわけはない。たとえそうであるなら私が死んだ後でもお前は祖母を殺しに行くだろう。だから私が嘘を吐くメリットなどない」
「口では何とでも言えるし、お前がどれほど工藤楓を大切にしているのかが分からんからな。それに、椎名詠史との契約上殺すわけにもいかないのだ」
「契約だと?」
 椎名詠史というのは鏡也がゲームセンターで対戦していた人物の名だ。あの男が貴崎と共謀していたということだろうか。
「依頼の報酬の一部がお前なのだよ。生きたままでなるべく部品も欠けないように、という条件付きでな。奴の趣味に興味はないが、お前も中々恵まれない人生を送っているなぁ?」
 椎名の狂人ぶりはこの目で見ていた。何を考えているのか到底理解できないような人物だったが、ろくでもないことを企んでいるのは確実。
 日姫の不幸はここで終わらないということなのかもしれない。
「どうしてお前はそこまでして機関の崩壊を狙う」
 貴崎の表情が明らかに曇った。
 今まで漠然と貴崎に情報を渡してはならないとだけ思っていたが、そもそもこの男がそれを狙う理由は何なのか。それを未だに日姫は知らない。
 日姫の両親を殺してこれだけのことをしておくのだから、安っぽい理由で動いているわけでないのは明白だ。
 この国の行方を左右するほどの影響を与えてでも叶えたい目的。
「いいだろう。お前も無関係というわけではない。機関を正義と信じ私を悪と信じるお前に、真実というものを教えてやる」
 貴崎は側にあった椅子に座り込んだ。
「私の両親は機関に殺されたのだよ」
 その目は憎しみの色に染まっていて、怯む日姫に容赦なく浴びせてくる。
「お前も機関が働いていた悪事は知っているだろう。奴らは機関設立のために必要な莫大な資金をどこから調達したと思う? この国を支配するほどの資金を簡単に捻り出せたと思うか?」
「……まさか」
 日姫は辺りを見回す。自分の家と並ぶくらい豪華な屋敷。これは貴崎が裕福であることの証でもある。
「奴らは裕福な家庭を狙い、その資金を強奪してきたのさ。私の屋敷を見ても分かるとおり、この家も機関の対象に入っていた。だから私の両親は殺され、蓄えてあった資産は根こそぎ奪われていった」
 日姫が読んだ書類にはまさにそのようなことが記されていた。三十年ほど前の書類であったから、機関が設立する前の話であることも一致している。
 貴崎が言っていることは、おそらく真実。
「そして奴らはそうやって得た金を使い、機関を造り、治安維持と称してこの国を支配した。だが考えてもみろ。治安維持と抜かしている奴ら自身が、人道を外れた行為をして成り上がったのだ。そんな奴らが作る平和など仮初めなものに過ぎない」
「……だからお前は、機関を潰したいのか」
「そう、これは復讐だ。ひいてはそれが世のためでもある。機関が支配する世の中など間違っているのだ」
 復讐。そのために殺人を犯すことなど間違っているであろうが、一概に非難することもできない。自分の両親を殺した機関の幹部であれば、殺したいほど憎んでもおかしくはない。
「だがお前は、私の両親を殺した」
 貴崎の眼光が鋭くなる。
「自分だって両親を殺されてその辛さを知っているくせに、お前は私にもその想いを味わわせたんだぞ! やっていることは機関と同じじゃないか!」
「素人がほざくな。私の復讐はこの国のためでもあると言っているだろう。そのために奴らが何人死のうと必要悪だ。そんなことで私の信念は揺らがない」
 日姫は自分の下唇を痛いほど噛んだ。
 この男はもう止まらない。自分の復讐を果たすためならどんな手段も惜しまず使うのだろう。
「さて私は忙しい。貴様はもうしばらくそこで、己の無力さに打ちひしがれているといい。地獄に堕ちた両親の顔でも浮かべてな」
 くっく、と貴崎が笑って部屋から出て行く。
 日姫は絶望に沈んだ顔を伏せて、胸中で呟いた。
 これが、自分が生きていることで生まれる悲劇か、と。



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