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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第六章 運命はしかと訪れる(3)

 貴崎は自分の部屋へと戻ってきていた。
 目の前には電源の入っていない複数のモニターがある。屋敷中に取り付けられてある監視カメラの映像を映すものだ。
 もっとも貴崎はボディーガードとも言える武装集団を雇っているため、普段はこのモニターを使って一々監視などしていない。そんなことをする必要がないほどこの屋敷のセキュリティは強固だからだ。
 なのでこれは何か事件が起こったときに原因を究明するときにしか使われない。スーパーにあるようなカメラもそんなものだろう。
 貴崎は椅子に座って、先ほどの日姫とのやり取りを反芻する。
 貴崎のやっていることは機関と同じ。
 馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てた。
 日姫の両親が死んだのは自業自得だ。第一、綺麗事ばかりで機関を潰そうとしてもそう上手くはいかない。この国全体のためなら、多少の犠牲が出るのは致し方ないだろう。
 それが分からない子供の言い分に耳を傾ける必要はない。
 貴崎は気分転換に煙草を取り出そうとしたが、急に生まれた耳障りな警報に手を止めた。
 侵入者が入ったときは警報が鳴るシステムがある。誰かがこの屋敷に侵入したらしい。
 機関がもうここを嗅ぎつけたのだろうか。いくら何でもこんな短時間に見つかるはずはないと思うから、別の何かか。
 貴崎は舌打ちを鳴らし、待機している武装集団の方に連絡を取る。
「おい、何があった!」
 侵入者がいるのであれば、速やかに武装集団の手にかかって死んでいるはずだが、肝心の向こうからは応答がなかった。
 不穏を感じた貴崎はモニターの電源を入れる。
 たとえ機関の連中であったとしても、貴崎の屋敷に足を踏み入れるのは自殺行為に等しい。屋敷の入り口にも数人が警護に当たっているし、奥の部屋の方には二十人以上もの人間が戦闘態勢で待機している。
 だが、その割には屋敷の中が不気味なほど静かだった。
 そしてその原因は、起動したモニターの画面を見て瞬時に理解した。
 入り口にいた数人と奥の部屋で待機していた連中が、血塗れになって死んでいたのだ。
 警報が鳴ってからの短い時間で全滅したと考えるのはあまりにも無理がある。
 しかし侵入者があれば必ず警報は鳴るはずなので、その前に惨殺するというのも不可能なはずだ。
 一瞬でパニックに陥ってしまった貴崎の目に映ったのは、監視カメラにちらりと写った二人の姿。
 その内の片方は白い服を着た背の高い男だ。
 迷わず日姫を監禁している部屋へ向かう二人を見て、慌てて貴崎は部屋から飛び出した。
 かつて二十二人の人間を殺害した佐倉鏡也を侮っていたのかもしれない。どうやって武装集団を殲滅したのかは不明だが、あの男ならそれさえもあっさりと成し遂げたっておかしくはない。
 その上何故この屋敷の居場所がこんなにも早くばれたのか。色々と疑問点は浮かぶが今考えるべきことはそんなことではなかった。
 早く逃げ出さなければ、自分と日姫はあの男に殺される。
 まだ確証のない段階で日姫を殺されるわけにはいかないし、自分が殺されるなど以ての外だ。
 迷いなく日姫の部屋へと向かっていた様子からすると、おそらくどこで監禁しているのかさえも把握しているのだろう。
 だがやたら広い貴崎の屋敷では、佐倉鏡也が辿り着くより早く、自分が日姫を連れ出して逃げることが可能なはずだ。
 警報が鳴り響く中、貴崎は日姫のいる部屋のドアを乱暴に開け、状況を掴めず困惑している日姫の服を掴み強引に引き摺っていく。
 このまま正面入口へと戻っていけば確実に佐倉鏡也とぶつかるだろうが、貴崎の屋敷にはいざというときの裏口がある。貴崎以外は誰も知らない秘密のルートだ。
 日姫は何が起きたか分かっていない顔つきだが、それは貴崎も同じことだった。あの悪魔によってわけの分からないままに自分の計画が崩れていくのを感じている。
 それでもとにかくこの場から逃げるしかないと思って裏口へと駆けだした貴崎だったが、ふとその足が途中で止まった。
 貴崎の足元に銃弾が撃ち込まれたからだ。
 青ざめた貴崎が振り向いた先にいたのは、幾人もの死体を生んできた悪魔の男。
「追い駆けっこはお終いだ。貴崎恭志郎」
「……佐倉鏡也っ!」
 気づけば警報は、鳴り止んでいた。



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