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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第六章 運命はしかと訪れる(4)

 数時間前。
 鏡也と理恵は椎名の車に乗って、列車の乗り場へと移動していた。
 どうやら貴崎の屋敷は第二十二区にあるらしく、椎名がそこまで連れていくと言ったのだ。
「……またあそこに行かなくちゃならねぇとはな」
 盗賊団に村が襲われたことを一々思い出させる第二十二区は、あまり鏡也にとって好ましい土地ではない。
 何の因果か、あの男の屋敷がそこにあるのだというのだから不思議なものだ。
「いやぁ、でもあいつが第二十二区にいたからこそ俺っちに依頼が来たわけですし」
 椎名は荒い運転をしながら鏡也に話しかけてくる。
「お前、第二十二区に住んでんのか?」
「住んでるというか、まぁ仕事場があそこにあるんでね」
「あんな田舎じゃ仕事もそうそう入らねぇだろ」
「依頼は大体が電話やメールで来たりするからねぇ。そう考えると直に交渉に来た貴崎の方が珍しいもんだけど」
 日姫を連れ去る計略に手を貸した椎名。そんな男と今手を組んでいるのだから奇妙な縁だ。
「お前、貴崎が何故機関を崩壊させようとしているかは知ってんのか?」
 機関も掴めていない事実だが、情報屋である上に貴崎と共謀していた椎名なら、何か知っているかもしれない。
「んー、それは一つの依頼として受け取っていいんすか? それなら教えてやってもいいんだけど」
「……いや、いい。別にあの男が何企んでようが関係ねぇしな」
「んだよそこは乗ってくれよつまんねぇなぁ。別に教えてやるよそんなことくらい」
 椎名は機関が昔、貴崎の家や他のところから資産を強奪していたということを話した。貴崎は両親を殺された復讐から機関を潰そうとしているらしい。
「復讐、ね」
「奇しくもあんたと同じ理由っすよ、鏡也さん。貴崎を殺すのに躊躇いが出てきましたか?」
 鏡也が盗賊団を殺したのは復讐心からだ。その鏡也には、潰したいほど機関を恨む貴崎の気持ちが確かに分かる。
 しかし、何故それを椎名が知っている。
 鏡也の心中を見透かしたのか、横目で表情を窺った椎名は無邪気な笑みを浮かべた。
「僕ちゃんの情報網を舐めないでもらえるかにゃー。あんたの過去くらい、こっちだって掴んでるぜ」
 ゲームセンターのときも盗賊団という言葉を口にしていた。やはりこの男は鏡也の秘密を知っているらしい。
 どうやって情報を得たのか知らないが、恐ろしいほどの情報力だ。
「鏡也さんと同じ……って、どういうことですか?」
 後部座席に座っていた理恵が話に割って入る。鏡也が二十二人の人間を殺したのは復讐だという事実を知っているのは、鏡也と椎名と弥生の三人だけだ。機関も知らないことなのだから、理恵が分からないのも当然だ。
「鏡也さんが二十二人の人間を殺した事件。あれは故郷を襲撃した連中への復讐なんすよ」
「……椎名っ!」
 勝手に理恵に説明を始めた椎名を睨むが、肝心の椎名に悪びれた様子はない。
「いいんじゃないすか。この件が無事解決したら鏡也さんたちは三人で機関からの逃避行をするんでしょ。あの事件の真相を知る権利くらいはあるはずだ」
「……ちっ、勝手にしろ」
 鏡也は座席に寄りかかって椎名の話す自分の過去を耳に入れる。
 殺された二十二人の身元でも探ったのか、椎名の話は全て正確なものだった。
「そうだったんですか……」
「今更そんなこと知ってどうした。別にどうでもいい話だろうが」
 鏡也が毒づくと、車は丁度乗り場へと着いた。
 ここから列車に乗って第二十二区へと向かい、予め椎名に教えてもらっていた貴崎の屋敷へと突入するのだ。
「送ってもらって悪かったな。これでお前の仕事は終わりだ」
「うまくやってくれよ? あんたたちが返り討ちにあったら俺も金が入らないんすから」
 理恵が乗り場にいる機関の人間に金を払い、鏡也に手招きしている。
「あぁ、そうそう。屋敷に乗り込むときは正面から堂々と入っていいぜ」
「正面から? 流石にあいつも何か雇ってるだろ?」
 椎名から貴崎は単独犯だと聞いていたが、前に椎名に依頼していたように、金で雇った仲間は他にもいるはずだ。
「ま、俺からのサービスって奴っすよ。信用するかしないかは自由だけど」
 列車が出発するので鏡也も乗りに行った。椎名は車を転回させて遠くへと消えていく。
 列車の中は相変わらず人がいなくて、鏡也と理恵の二人だけを乗せて発車した。短期間の間に三回も第二十二区へと向かう鏡也を見て機関の人間は首を傾げていたが、疑問があるならてめぇの上司に訊けとだけ言っておいた。
 灰村にはまだ貴崎の居場所が分かったことを伝えていない。教えれば日姫を連れ出して逃げる余裕がなくなるかもしれないことを考慮したからだ。突入直前くらいに教えればいいだろう。
「鏡也さんに謝らないといけませんね」
 座って車窓を眺めていると、理恵が突然言い出した。
「今まで鏡也さんがやってきたのは無差別殺人だと思っていたんですけど、復讐だったなんて知りませんでした」
「だからどうした。俺が二十二人殺したってのは紛れもない事実だし、復讐だからって許されるもんでもねぇ。それが許されるなら貴崎だって許されることになるだろ」
「それはそうですけど……」
 最近の理恵は妙に沈みがちだった。機関に刃向かって日姫を助け出そうとしているのだから、罪悪感のようなものを感じているのかもしれない。
「それより、いいのか。本当に機関に敵対することになるぞ」
 一応は理恵も機関の一員なので、少しは思い入れとかもあるのではないだろうか。
「構いませんよ。私は元々、入りたくて入ったわけじゃないんです。それに機関があんな悪事を行っていたなんてことを知って、それでも機関の下で働くことなんてできません」
「だが、機関から狙われたらかなり辛い生活になるぜ。お前ならまだ手を退ける」
「大丈夫です。……鏡也さんと日姫ちゃんと、三人で逃げてみせますから」
 理恵の覚悟は本物のようだった。鏡也は思わずため息を吐いてしまう。
「馬鹿だよな。お前も」
「余計なお世話です」
 真面目な表情で話す理恵を見て、鏡也も思わず本心を吐露する。
「あのガキもお前も、必ず俺が護ってやる」



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