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彼が彼女を殺すまで
First Story

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第六章 運命はしかと訪れる(7)

「馬鹿な! 何故開かない!」
 貴崎がよろよろになった体で、裏口の扉を叩いていた。
 階段を降りた先に一つの扉があり、そこを開ければ裏口に繋がるはずだった。
「こんな、こんなことで、私の計画が崩れるわけが……」
 貴崎が惨めな声で叫ぶ。
 そして、それを背後で聞いていた鏡也が、ゆっくりと貴崎に近づいていく。
「……ひっ!」
 鏡也の存在に気づいた貴崎が跳ね上がるように悲鳴をあげた。先ほど鏡也に銃を蹴り飛ばされて、もはや反撃する武器も残っていないのだろう。
 そんな男を哀れむつもりもなく、鏡也は銃を抜いて貴崎に発砲する。
 その弾が腕に、足に、肩にあたり、貴崎が奇声を発しながら地べたに体を伏せる。
 鏡也は銃をしまうと貴崎の体を持ち上げて、その頭を壁に思い切りぶつけた。
「……死ねよ」
 壁にドス、ドス、という鈍い音が何度も響き渡り、貴崎の頭から血が溢れ出していた。
「死ねよクズが。何堂々と息を吸ってやがる」
「や、やめてくれぇ! 痛い、痛い! もう復讐なんてしない! だから――」
 鏡也の悪魔の手から離れた貴崎の体が、再び床に倒れ込んだ。
 鏡也は日姫を縛っていたロープを取り出して、それを貴崎の首に掛ける。
 ぎりぎり、と首を絞められていく貴崎が、目鼻口から液体をぽたぽたと落とし、両手をぷるぷると首のロープに持って行く。
「が……か、はっ」
「死ね、この薄汚いクズ野郎が」
 鏡也の目は写真記憶という、見たものを完全に記憶する能力がある。
 彩の死に際の表情さえも、鏡也の目にはべったりとこびりついている。
 そしてその目が二度と開かなくなった瞬間さえも。
「死ね」
「ぎぃぁあ……死、死ぬ……!」
 両手を伝って、人の生命が絶たれていくのを感じた。
 貴崎の首から異常なまでに血管が浮き上がり、全身がびくびくと震えている。
 だがそれがどうした。
 こいつのせいで彩は死んだのだ。
 この苦痛は、この男が背負わなければならない責任だ。
「死ね! てめぇみたいなクズがいるから世界が腐る! その汚ぇ面で二度と人様に迷惑をかけられないように、この俺がぶっ殺してやる!」
「ぎぃぁぁぁぁぁあああ! た、たず、たずげ」
 貴崎の言うとおり悪は根絶やしにしなければならない。
 だからこそ真っ先に死ぬべきなのは、この男だ。
 何故生きてる。何故息を吸う。何故人の言葉を喋る。こんなクズが。生きてる価値もないクズのくせに調子に乗るな。
「……じ、じっ」
 貴崎の口からはまともな言葉が出せなくなっていた。それでいい。元々喋る資格さえもないのだから。
 それなのに、この男は最後の気力を振り絞ってこう言った。
「――じに……だぐ、ない……!」
 ロープが貴崎の首から外れた。
 何もかもを吐き出すように貴崎が激しく咳き込み、鏡也はその様子を呆然と眺める。
 どうして離した。
 どうして殺すのを躊躇った。
「ひいいいいっ!」
 鬼のような形相で睨む鏡也に気づいて、貴崎がばたばたと扉の方に逃げる。
 あまりにも醜く、生かすにも値しない姿。
 なのに。
「たすけ、たすけてくれえ! もう嫌だ! もう迷惑をかけない! 機関にも刃向かわない! だから、だから、殺さないでくれぇええ!」
 この男はあろうことか鏡也に命乞いをしている。
 無駄だと分かっているくせに生きたいと願っている。
「同じじゃねぇかよ……」
 死にたくない、と言った彩。
 どんなにこの男が醜いクズでもそこだけは彩と同じだった。
 所詮こいつも、死ぬことを恐れる人間であることに変わりはないのだ。
「くそ野郎がぁああああ!」
 鏡也は拳が裂けるくらい壁を殴り続けた。
 やがて両手の痛みで頭が冷え、鏡也は階段を登っていく。
 貴崎は血と涙まみれになりながら、階段の下で一人生き長らえていた。



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