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彼が彼女を殺すまで
First Story

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エピローグ 少年と少女(3)

「――くそがっ」
 鏡也は苛立たしげに携帯を閉じて悪態をつく。
 彩が死ぬことなど些細なことに過ぎないといった灰村の様子に腹が立った。元々そんな女であったと知っていたが、はっきりとその様を見せつけられて怒りを覚えないわけがない。区長としては確かに優秀だろうがあの女は貴崎に負けず劣らずのクズだ。
 そうは思うものの、やはりそれは鏡也が言って良い言葉ではないのだろう。
 何故なら彩を殺したのは、紛れもなく自分自身なのだから。
 どうしようもないクズは、おそらく自分の方。
「……ちっ、帰るぞ」
 だから鏡也はそれ以上何も言わず、隣に立つ少女にだけ言葉を向けた。
「……いいのか? 本当に。私を殺さなくて」
 日姫が鏡也を見つめてくる。
 鏡也は日姫を殺していなかった。灰村に聞かせた銃声は日姫に向けて撃ったものではない。
「殺したさ。機関の機密を知って他人のために命を投げ出した『工藤日姫』はな。ここにいんのはただのガキだ」
 鏡也の言い分に、日姫が弱々しく笑うのが分かった。
「屁理屈だな」
「一々言うな。それくらい分かってる」
 鏡也と日姫は倒れる彩を見下ろす。日姫のために貴崎の凶弾を浴びた女性の死体。
「彩の死体は埋めていこう。お前の死体も埋めたことにしておく。これでお前が生きていることを知っている奴は俺以外にいない」
 鏡也は彩を抱き抱えて、日姫の方を振り向いた。
「何してる。行くぞ日姫」
「……なぁ、工藤日姫は死んだんだよな?」
 日姫は彩の頬にそっと手を触れて、それからこう言った。
「ならこれからは佐倉日姫と名乗っていいか? 新たな自分としてやり直したい」
「……変な名前だな。後悔しても知らねぇぞ」
 二人は屋敷の中を歩いていく。
 鏡也と日姫が失ったものは大きい。以前の鏡也だったら、彩を死なせたこの世界を憎み、貴崎のように復讐に身を委ねていたはずだ。
 でも彩は、この世界で生きることを望んでいた。
 だから鏡也がこの世界を恨むことはない。彼女が愛した空間だけは、絶対に守ってやると心に決めたのだ。
 その傍らに、小さな少女を連れて。

 <FirstStory 了>



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